本書を読もうと思ったきっかけは、直近読んだ『プロフェッショナリズムと問題解決の実践』という本。
印象的だった内容の一つに、「問題解決においては、コンテンツ(分析結果により明らかになった取るべき行動)とコミュニケーション(行動を促す)は同格で大切であり、コミュニケーションには『ストーリー』が必要」というものがある。
ドキュメントのような情報は、"二次元的情報"である階層構造をそのまま表現できるが、コミュニケーションは"一次元的情報"であるがゆえに、ストーリーが必要という話。
これまで、メンバーのライティングスキル向上のトレーニング題材として、ブログを書いてもらったことがあるが、教えるのがとても難しかった。代わりに題材をブログから現場で使うドキュメントに切り替えたが、こっちはブログよりは格段に難易度が低いと感じた。
当時はこの差が何なのか自分でも言語化できていなかったけど、ドキュメントは情報を階層構造のままに二次元的に配置できるが、ブログは読者へのプレゼンみたいなもんで一次元的だからストーリーが必要、ゆえに難しいのだな、と腹落ちした。
そんなこんなで、伝える技術としての「ストーリー」って超大事なんだな〜と思っていたところに、Amazonで目に入った本書。存在自体は以前から知っていたけど、自分的ホットワードの「ストーリー」が含まれている、かつ読みたいけど気が重かった経営戦略本ということで、読んでみることに。
紙の書籍で558ページと、かなりボリューミーな内容だけど、割と楽しく最後まで読めた。
個別の要素についての意思決定(たとえば、ある製品の生産を社内でやるか、それとも外部企業に任せるか)は、基本的にwhatやwho(whom)やhowやwhereやwhenを確定するということです。こうした個別の打ち手に対して、戦略ストーリーが問題にするのはwhyです。
とあるが、競争戦略はどこまでいっても会社や事業の特定の文脈に埋め込まれたものだから、さまざまな断片的なではなくそれらをつなぎ合わせた全体として初めて意味を持つ。
内容は、「ストーリーとしての競争戦略とはなにか?」という抽象論と、戦略に優れた各社の戦略ストーリーをひたすら読解するという膨大な具体例で構成されている。
それぞれの具体のケースからどのように学びを得るのか?という「著者の思考回路をトレースできること」が、本書の一番の価値だと感じる。
本書を読むまでは、他社の成功事例を勉強することに(ほとんど)意味はないと思っていた。「成功はアート、失敗サイエンス」と言われるように、成功には再現性がないから、というのがその理由。
実際、本書の中でも成功している他社の断片的な要素を取り入れることはむしろ危険と言っている。
ただ、本書を読み終えて、成功の裏にある戦略ストーリーに着目して見ることに意味があるんだな、と理解できた。
他社のベストプラクティスの模倣は、それ自体は意味がなく、むしろ害にすらなりうる。すべての戦略は文脈に埋め込まれている。
自社の文脈の中でベターな戦略を取るための選択肢を増やす意味で、他社事例を参考にするのがよさそう。
そもそも、各施策そのものの方法論がとても優れているのであれば、どんな会社にも広がっているはず。そうなっていないということは、その施策自体が簡単に真似できないものであったり、それ単体で取り入れても意味がない(むしろ害になる)ということであり、「戦略にはストーリーが必要」ということの裏返しと言える。
同様に、自社でうまくいった施策も、自社のコンテキストだったからうまくいったと言える。
この理屈でいくと、最近はあまり積極的にキャッチアップしなくなった各種カンファレンスでの発表から得られるのは、「何をしたらどういう結果になった」という方法論そのものよりも、背景にあるその会社や事業・現場特有のコンテキストに依存したストーリーにこそ価値があるんだろうと思う。
読解の対象としては、新聞や雑誌の「速報」的な断片の情報よりも、ある企業の歴史や戦略についてじっくりと記述した本、優れた経営者の評伝・自伝といった、「ストーリー」になっているもののほうが適しているでしょう。
とあるが、企業や経営者、業界についても、「ストーリー」である歴史を辿ることで、より効果的なインプットになりそう。歴史の重要性を改めて認識。
相当ボリューミーだけど楽しく読めたということで、今の自分にちょうどフィットした良書だった。