「品質文化をどのように組織に根付かせるか」がメインテーマの本。具体的なテストへの向き合い方が知れたのも大きかったが、自分も現場のマネージャーでやっている目標設定やビジョン作りについて言及があったのも面白かった。
品質はビジネスの成果と顧客価値に直結していることを再認識。
3つの品質ナラティブ
リーダーとして現場に変革を起こすために、まずは組織に根付く品質文化について理解する必要がある。
1. 責任ナラティブ:誰が品質に責任を持つかが考えられ、語られている
どう変化させていくのがよいか?でいうと、結論品質への責任は特定のチーム(QAやエンジニアチーム)が持つのではなく、組織全体に広げていくのがよいよね、という話。あらゆる部署がプロダクトの品質に直接関わっている。
2. テストナラティブ:品質向上につながる正しいテスト技法はどれか・どのツールを使うべきかが考えられ、語られている
いわゆる「どうやってQAするの?」の領域。QA界隈で最も語られるもの。
どんなプロダクトなのか?どんな開発手法なのか?ユーザーからの期待や要望はどのようなものか?こうしたコンテキストを踏まえ、テストナラティブは語られる。
プロダクトライフサイクルによっても適切なテスト手法は変わるので、テストナラティブは静的なものではない。
3. 価値ナラティブ:品質に投資した場合の見返り(ROI:投資収益率)が考えられ、語られている
QA界隈で最も語られづらいもの。採用・インフラ強化・ツール導入等の品質への投資は分かりやすいが、その結果としての顧客満足度の向上・社内業務の効率化・チームが費やす時間の短縮の測定は難しい。
収益性・コスト削減・リスク軽減の3つの観点で見るとよい。
テストの種類
テストには大きく2種類ある。1つは新たな情報を得るための「調査」と、もう1つは「検証」で想定通り動くかを確認するもの。
調査と検証、という区分は、『知識ゼロから学ぶソフトウェアテスト』では「探索的テスト」と「テストケースベーステスト」と表現されていた。直近うちのチームでも一人目QAエンジニアを迎え入れてQA体制の構築を行っているが、まさにの調査と検証を使い分けている。開発と並行して調査を行い、未知のバグを発見していく。ここでかなりの数のバグが見つかる。その後、テストケースで正しい仕様通り動くか確認していく。
本記事執筆時点ではテストケース作成前なので「検証」フェーズはこれから。QAとして意図的に調査を組み込むのは初めてだったので、どれほどクリティカルなバグが拾えているか、検証フェーズの結果が楽しみ。
自動化すべきか
なんでも自動化すればいいというものではない。自動化すべきかの判断基準が本の中で紹介されていたので、引用。
- 自動化されたテストケースが変更の手を入れることなく長期にわたって利用できると期待できること
- テストケースが比較的自動化しやすいものであること。すなわち、細部にわたる操作を必要としない手動テストから生成できるか。手順が複雑になるほど、自動化は著しく困難になる。
- 手動で実施するよりも自動化して実施および維持するコストの方が安い
基本的には費用対効果で考える必要がある。直近E2E自動テストツールのMagicPodを社内に導入したのでこれからシナリオを充実させていく予定だが、どこまでを自動化させるのか誰も判断基準を持っていなく路頭に迷っている感があったので、一つの基準として使ってみたい。
プロダクトライフサイクルと品質
フェーズによって求められる品質が変わるのは当然。また、数多の素晴らしいプロダクトで溢れている昨今ユーザーも目が肥えてきて当たり前品質の水準は日々上がり続けるので、MVPといえども品質の要求水準は高まる一方。品質が低すぎるとユーザーは2度と使ってくれないので、どこまで品質を求めるか?はユーザー感度の高さが求められる難易度の高い領域だなと思った。
適切な目標指標
プロダクトの種類によって適切な指標は3種類ある
1. アクションベースの成長指標
メディア、ゲーム業界等多くの toCエンタメサービスにおいて有効。DAU等。
2. トランザクションベースの成長指標
商品やサービスを購入させることが本質のEC、マーケットプレイスなど。Airbnbは予約成立数、Uberは乗車完了数など。
3. プロダクティビティーベースの成長指標
toBサービスの多くは、顧客の業務生産性を高めることが目的。顧客が与えられたタスクをどれだけ素早く成功させられるか。
Slackの「2000以上メッセージをやりとりしたチームの数」など。
アクションベースがアクションそのものに着目するのに対し、その結果に着目しているという解釈をした。
戦略の前にビジョン
明確に描かれたビジョンには、とてつもないパワーがある。自分たちはどこに向かいたいのかを示す最上位レイヤー。
ただ、ビジョンが役に立つかどうか、リーダー自身がそのビジョンにワクワクしている必要がある。
元々自分自身がビジョンを持たずに生きてきたタイプなので、未来や社会に目を向けるのはとても苦手という自覚がある。しかし、ビジョンを作り語るためには、未来や社会の視点が不可欠になる。自分がマネージャーとしてさらに飛躍するために、間違いなく重要な要素の一つ。しっかりと向き合っていきたい。